企業との契約は、一体どの範囲になるのだろうか?これを考えさせられる事件があった。多くの企業は多様な事業を持っていて、例えば個人へのサービスでも同一企業が複数のサービスをしていることは珍しくない。でもユーザ側は提示された契約は、当該サービスのみに限定されると思っているはず。
今回、ディズニーパークで食事をした人が、アナフィラキシー症状を起こして亡くなった。遺族はディズニーパークを訴えたのだが、ディズニー側はとんでもない切り札を出して、訴訟を門前払いしようとしている(*1)。
・その家族は、ディズニー+の1ヵ月無料視聴のため、契約をした。
・そこには「集団訴訟放棄」と「個別の仲裁によって解決」の項目があった。
ディズニー側はこの条項を盾にしたのだ。
遺族(原告)側は、ディズニー+とパークのサービスは別だと反発しているが、高額報酬を得る悪徳弁護士が出てきて、彼らを丸め込む公算が高い。
消費者としてはおおむね対岸の火事だが、企業の法務担当者としては見過ごせない話だ。日本企業も、多くの製品やサービスを米国企業から受けている。購入契約書は非常に難解な英語で書かれているのが普通で、新規契約でも更新にあたっても「標準契約書なら仕方ないですね」と厳密な精査をしないこともある。
・サービスを受ける部門はとにかく契約したいので、法務部門のお墨付きが欲しい
・法務部門は、どうしてもサービスが受けたいなら事業部門が責任を持てばいい
ともたれあって、リスクを背負うこともある。そんな状況で、両社間に複数の契約が存在し、契約の及ぶ範囲に疑問がわいたらどうなるのだろう?大きな企業であれば、事業部門はもちろん法務部門さえ複数あって、お互いにどんな契約を持っているかの情報共有は不十分だ。A事業部門が受けていたサービスについて訴訟を考えたが、実はB事業部門が別のサービス契約を結んでいて、そこに書いてあったことが影響するとしたら・・・。
この事件をきっかけに、企業法務部門は自らの契約書をもう一度見直す必要があるのかもしれない。訴訟大国アメリカをまねたくはないが、契約書の罠はチェックしておきたい。