梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

特定秘密は守れるのか(後編)

 実際、適性評価を受けた人、そうでない人が混在して働いている組織では、特定秘密の扱いを厳密に守ることは難しいのだ。適性を持つ人がそこにいないが、急に情報を使う必要があることもあるかもしれない。閉鎖空間ゆえチェックする外部の人はいない。「ま、いいか。今回だけ」が、やがて常態化してしまったように思う。

 

 この事件は、昨日紹介したように欧米諸国の海上自衛隊(ひいては日本政府全体)に対する信頼を損ねた。その上に、経済安全保障推進法、セキュリティ・クリアランス制度によって「重要経済安保情報」を民間とも共有するスキームを推進しようとするタイミングだったことも波紋を投げかけるだろう。これまででも、民間人のうち、

 

政府関係機関を兼務するような人

・防衛装備品開発などにあたる人

 

    

 

 には、公務員の「特定秘密保護法」の規定が適用されていたが、その数は多くない。しかしセキュリティ・クリアランス制度が実運用されれば、桁違いの数の民間人が適性評価を受け、刑罰を伴う守秘義務を負うことになる。今後その対象となる企業、関係部署の人は、

 

「鉄の規律の自衛隊でも守れなかったことが、自社にできるのだろうか」

 

 と不安になることもあるだろう。「重要経済安保情報」以前にも、経済安全保障意識の高まりにより、企業に対する有形無形の規制は増えている。その他のコンプライアンス関連のガイドライン等も増えている中で、企業のガバナンス体制は疲弊しつつある。

 

 「民間企業に何かを求める前に、政界・官界でやるべきことがあるのではないか」との意見も再燃するだろう。1年前に、適性評価の対象に、政務三役・国会議員・その秘書などが入っていないことはフェアかと疑問を呈した(*1)。

 

 海上自衛隊の事件を契機に、もう一度政界・官界での情報管理の在り方を見直してほしいと思う。遠回りかもしれないが、この面を固めるのが、欧米各国の信頼を回復し、民間への適用拡大を円滑に行う道ではなかろうか?

 

*1:クリアランス制度の適性評価 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)