梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

建設業DXと5G

 「DX with Security」のお話を方々でしているが、私一人で話す機会よりもう一人の講演者と分担して基調講演など承ることが多い。おおむね、ある業界でDXを進めている企業の役員がパートナーになる。今回もそんなイベントがプリンスホテルであった。その業種とは建設業界。

 

 全産業で人手不足が懸念されるのだが、この業界も、

 

・熟練従業員の高齢化

・若い世代の採用減少

・労働環境改善規制の発動

 

 があって、苦境にある。どうしても屋外作業になり、この暑さなど労働環境は厳しい。そこでこの企業(*1)ではDXに長らく取り組んできたとのこと。すでに現場作業を補佐する4足歩行ロボットも実用化、デジタルデータを駆使した現場の合理化、環境改善に努めておられる。

 

    

 

 業界ならではの問題点をデジタル技術で克服してゆく興味深い話が多かったのだが、特に面白かったのがタワークレーンのDX化。中層以上の建築には欠かせないもので、赤白に塗られ高くそびえたっているので、成長する都市の象徴でもある。しかしその労働環境は厳しい。オペレータは朝操縦席に登ったら、夕方まで降りてこられない。交代要員も休憩もないのだ。昼食も席でとる。

 

 しかも、資材の玉掛け作業待ちなどあり、2/3以上の時間は作業していない。そこで、操縦をリモート化した。オペレータは空調の効いたオフィスの一角で作業でき、同時に3台のオペレーションも可能になった。リモート化するのは微妙な操縦のタイムラグが心配だったが、実験の結果「違和感なく、安全に操縦できる」ことが分かったという。

 

 講演後「タイムラグ問題って、5Gのおかげですよね」と聞いた。答えは「Yes」だった。4Gのレイテンシーでは多分難しかったのだろうが、遅延を1/10以下にできる5Gなら可能になったのだ。

 

 ローカル5Gのアプリはあれど、広域5Gのキラーアプリがないと探していたのだが、決して大きくない市場とはいえ、ここに成果例があったのだ。この他、ロボットが大量に投入されるようになると、もっと通信量が増すはず。さらに多端末接続も5Gのメリットなので、建設現場は広域5Gの適用分野として有力だと思えてきた。

 

*1:宮大工の棟梁たちが集まって400年前に創業している老舗、難工事が予想される「初めて」の案件に技術力で立ち向かうのが社是