梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

死者が出廷した裁判

 本格ミステリーで時折使われる手法に「ダイイングメッセージ」というものがある。殺人事件の現場で、被害者が死に際に何かを書き残したり、何かを指さしたりすることだ。巨匠エラリー・クイーンは何度もこの手法を使い、晩年の「最後の女*1」では究極のダイイングメッセージを読者に贈った。

 

 ただ「死者のメッセージ」が現実の法廷に登場するなどとは、私は考えもしなかった。しかし今回米国の殺人事件の裁判で、被害者が出廷したとの記事があった。そんなことを可能にしたのは、そうAIである。

 

射殺されたアリゾナ州の男性、裁判で被害者として意見陳述 AIで動画生成 - BBCニュース

 

 故人の種々の情報から生成されたアバターが、法廷で被告人に語り掛けたとある。遺族の要望で、優しかった被害者が被告人にある種の贖罪を与えたものらしい。

 

        

 

 確かに故人をAIでよみがえらせることは可能だし、すでに4年前にイスラエルの企業がそれを試み(*2)、昨年には中国企業がビジネス化(*3)していた。サービス費用が20元~という安さで、急成長していると紹介されている。

 

 ただそれが法廷に・・・というアプリケーションには、全く意表を突かれた。今回のケースでは、結審した後の出廷だし、証言をしたわけでもない。恐らく有罪/無罪を争うような裁判ではなく陪審員もおらず、量刑はすでに裁判官が決めていた後の「出廷」で、その後禁固10年が言い渡されている。

 

 AIアバターが出廷するということはこの範囲ならば容認されるだろうが、そこに留まると考えるのは甘いような気がする。何しろ弁護士が一杯いてビジネスチャンスを窺っている「訴訟大国」である。陪審員の心情に訴える手段として使おうとする(悪徳)弁護士が必ずいる。問題は「AI倫理」の領域に入ってきて、法学者を始めとする広範な識者の議論に発展すると思われる。「法廷×AI」というテーマには注目しておきたい。

 

*1:ライツヴィル最後の事件 - 新城彰の本棚

*2:To Wake the DEAD - Cyber NINJA、只今参上

*3:思ったよりも早くやってきた - 梶浦敏範【公式】ブログ