梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

国際情勢・市場

米国の「AI兵器規制」案

拒否権を持つ常任理事国であるロシアが、自ら紛争当事国になったことで、より一層無力感が深まっているのが国連の安全保障理事会。しかし国際紛争の解決に向けた、全世界的な活動機関としてはここしかなく、無駄とは分かっても議論を続けなくてはいけないの…

混乱する米国にこそ学ぶべし

米国の会計年度は、10月から始まる。先月末、与野党が拮抗する議会両院で新年度予算が成立せず、あわや政府閉鎖かというところまでバイデン政権は追い詰められた。本予算成立までのつなぎ予算案も再三否決され、まさにギリギリのタイミングで最後のつなぎ予…

全世界売上げの〇%の罰金

先週、英国でネット上の有害情報を規制する法律(*1)が成立した。きっかけはネット上の自傷行為を助長する情報を得て、14歳の少女が自殺した事件。SNSや関連サイトにはこの種の情報が一杯あって、野放し状態になっていることも事実である。この法律は情報を…

民主主義は最悪の政治

これは英国の元首相ウィンストン・チャーチルの言葉である。この後「これまで試みられてきた全ての政治体制を除けばだが」と続く。皮肉屋のチャーチルが、逆説的に民主主義を礼賛したととらえることもできるが、もっと直接的に「やはり民主主義って困ったも…

「ジャニーズ問題」の国際感覚

いわゆる「ジャニーズ問題」については、同事務所が再起をかけると表明した内容について、賛否が分かれている。 ・辞任した社長が100%株式を持っていること ・ジャニーズの名前を残したこと ・今でも芸能界で強力な影響力を持っていること など、一般の資本…

SEMICON TAIWAN 2023

台日サイバーセキュリティ協力会議がこの日に設定されたのは、台北で大きなイベントがあり関係者が集まりやすかったからだと、スケジュールを決めた後で聞いた。そのイベントとは「SEMICON TAIWAN 2023」。半導体関連産業が一堂に会する、世界最大のイベント…

台日協力会議のこぼれ話

会議の終わりに、最後の司会を務めたITRIの局長が、 「この会議を発展させて、台日のみならずAPECエリアに協力の輪を広げていきたい」 とまとめてくれた。もちろん日本側にも否やはない。この日に来てくれた企業の人達を中心に、協力体制を整備しようと応え…

中国国境の壁が高くなる

世界経済の発展には、国境を越えた「ヒト・モノ・カネ・情報」の自由な流通が必要だと、私たちは思っている。東西冷戦終了後の(今にして思えば短い)期間、世界の一元化は進んだ。その時期は、インターネットの普及とデジタリゼーションの波が非常に高くな…

普通のサイバーセキュリティ国家

先週の米国メリーランド州キャンプ・デービッドにおける日米韓三ヵ国首脳会議は、成功裏に終わったといえるだろう。日本国内には「米国の戦争に巻き込まれる」との批判もあるのだが、北朝鮮・ロシア・中国という核兵器保有国に隣接している日本にとっては、…

NTTグループの「Intelligent Dozen」

このところ、国際情勢の緊張やサイバー犯罪の増加によって、サイバーセキュリティ関連の情報が多くなってきた。新聞に知人の名前が載ることも増え、関連書籍の出版も急増している。今月は、2冊新刊書を送っていただいた。1冊目は、NTTHDのCISOである横浜信…

核廃絶論と核抑止論だけなの?

日本の8月は鎮魂の月でもある。1945年の夏、ソ連の侵攻や終戦、そして何より2つの核兵器が日本列島に降って来た。私の親父は長崎の原爆投下を、約40km離れた大村空港(現在はヘリポート)で見た。それだけ離れていても、爆風はすさまじかったという。 広島…

ウクライナに学ぶサイバー防衛

ロシアのウクライナ侵攻は、サイバー空間とリアル空間の双方がからむ本格的な「ハイブリッド戦」となった。クリミア侵攻以降警戒感を強めたウクライナ政府とそれに協力する西側政府や民間機関は、少なくともサイバー空間の防衛についてはこれまでにない規模…

バイデン政権の危機感の表れ

入社5年目、まだ30歳前だった私は、突然の異動命令で田舎の事業所から本社機構に転勤した。そこは、複数の事業所からひとりずつ集まった幹部スタッフ部門。田舎事業所の狭い世界では知ることができない、様々なことを経験した。中規模の事業所から来た課長…

国連安保理でのAI規制論

先週、国連安保理で初めてAIに関する議論が行われた。ウクライナ紛争や北朝鮮のICBM問題など、常任理事国ロシアの拒否権があって、実効ある措置が採れない会合である。しかし軍事の世界において、 ★戦略級:OSINT、SIGINTなどのデジタル情報なしに戦略策定は…

FTCカーン氏の巨大IT叩き(後編)

FTCはマイクロソフトのアクティビジョン・ブリザード買収(*1)阻止に向けた審判手続きを停止したので、両社は8月末に予定していた買収期限を3ヵ月伸ばしはしたものの、買収完了に向けて前進できたことになる。 ただバイデン政権は、今回の件はさておき、…

FTCカーン氏の巨大IT叩き(前編)

バイデン政権が誕生した時、人事として一番驚かされたのは、FTC(*1)のトップに当時32歳と若いリナ・カーン氏が就任したことだった。パキスタン人の両親からロンドンで産まれたコロンビア・ロー・スクールの准教授。専門は反トラスト法である。以前から巨大…

サイバー空間の国境問題(後編)

サイバー空間での国境問題がはっきりしないゆえ、種々の問題が起きている。いちはやくサイバー空間を国家主権の及ぶところと宣言した中国では、 サイバー空間での国家主権 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp) で紹介したように、SNS上で香港独立を主…

サイバー空間の国境問題(前編)

「サイバー空間には国境がない」と、Global & Digitalを推進する私たちデジタル政策を担当する者たちは言い続けてきた。しかし、この空間には従来の国家主権が届かないゆえに、 ・法秩序が不十分で、無法地帯に ・個人情報保護や特許権、著作権などで不具合…

2025年に「デジタル課税」発効?

欧州各国が「デジタル課税」の導入をもくろんでいることを聞いたのは、おそらく5年ほど前。その後、欧州委員会・G7・OECD・G20などの場で議論されていることは知っていて、最近では、 デジタル課税の遅れはいいとして - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.…

「AIの定義」を今こそ(3/終)

2年前から「AIの定義」を求めていたのに、なぜ今取り上げるのかというと、AIの利用分野が当時よりずっと広くなってきているから。例えば医療業界では、 医療現場でAIが「やっていいこと」と「やってはいけないこと」…AIによる医療事故の責任の所在(奥 真也…

「AIの定義」を今こそ(2)

「AIの定義」を考えなくてはと、私が思ったのは2020年ごろ。国内の話ではなく、やはり欧州委員会との議論の場でだった。 欧州が示したAIの定義 - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com) で紹介したように、通常システムまで全部を包含するような定義を主張…

「AIの定義」をいまこそ(1)

「生成AI」が華々しく登場し、普通にWebブラウザでも使えるようになって、様々な分野での活用やそれと並行した危惧が伝えられている。最近購読を始めた<MIT Technology Review>でも、人気記事の上位はAI関連が常に占めている。 今でこそ、研究機関や企業は…

日ASEANのデータ越境基盤

「DATA Driven Economy」である現在では、企業が活用できるデータの質と量が、その企業の成長に深くかかわってくる。質の中には、そのデータがタイムリーに使えるかも含まれるし、量の中には役に立つデータという意味も含まれる。私は、企業のデータ活用には…

欧州議会の「AI Act」

今月、欧州議会が「AI法」の承認に関する投票を行った結果、圧倒的多数で可決された。世界に先駆けたAI規制を本格的に議論するスタートラインに、EUは立ったことになる。日本のように議会で議決すれば法律が決まるというわけではないのが、この国の立法の難…

「会社は誰のものか」論争

欧州各国では、ストライキが頻発している。原因は物価高と行政サービスの低下、賃金が(思ったほど)上がらないこと、社会福祉の切下げ、国民負担の増加などさまざまだが、一般市民の不満がかつてないほど高まっていることは間違いがない。これを受けて、富…

スパイ防止法はなくても

米国のトランプ前大統領が、37の罪状で起訴され、その全てを否認したと伝えられる。TOP Secret(最高機密)に区分される文書も持ち出していて、これはスパイ防止法違反にあたるだろう。一方日本では、 ・スパイ防止法がないのは問題 ・各国の諜報機関がピク…

日台情報セキュリティ交流(後編)

日本でもセキュリティをビジネスにしようとすると、顧客のIT部門との軋轢があり、IT部門が納得してくれても、管理部門という壁があったことを説明した。それを乗り越えるには「サイバーセキュリティは経営課題」だとCEOに理解してもらうことだ。経団連や政府…

日台情報セキュリティ交流(前編)

私の所属するシンクタンクは、台湾工業技術研究院(ITRI)との交流を続けている。きっかけは、2018年に世界を代表する半導体ファウンダリTSMCが、サイバー攻撃で3日間操業を止められたことに由来する。ITRIは台湾政府の意向を受けて、2019年にサイバーセキ…

アルメニア・アゼルバイジャンの和平

ロシア・ウクライナ紛争の和平に関して、いろいろな国が提案をしているが、現状では和平交渉が始まる気配はない。提案している各国も「言いましたよ」程度の提案だとする有識者の意見もあった。 一方長年紛争が続いていた、アルメニアとアゼルバイジャンの紛…

鉄道輸出、デジタル屋からみた「コア」

日本の鉄道技術は世界一・・・いや少なくとも世界有数である。「弾丸列車」の異名をとった東海道新幹線の開業は、1964年。それ以降日本各地に延伸していきながら、飛び込み自殺などの例を除いて死亡事故はほとんどない。かの東日本大震災でも、脱線しただけでク…